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【取材記事】自分の命が森の栄養に “自然に還る”新たなお墓の選択肢「循環葬」とは?
at FOREST株式会社
人生の最後を考えるとき、多くの人が直面する「お墓の問題」。近年では、「継ぐ人がいない」「管理費がかかる」という理由から、「お墓はいらない」という声も。そんな中、2023年6月30日、大阪府豊能郡能勢町に位置する「能勢妙見山」では、火葬後のご遺骨をパウダー化し、森林の土中に埋葬する国内初の「循環葬」が始まりました。墓標や墓石は置かず、ご遺骨は土に還す。「森と生きる・森に還る・森をつくる」を合言葉に、人と地球に優しい弔いの形を提案しています。
今回は、循環葬サービス「RETURN TO NATURE」を運営するat FOREST( アットフォレスト)株式会社 COO正木雄太さんに、サービスが生まれた背景や環境への利点についてお話を伺いました。
【お話を伺った方】
at FOREST株式会社COO 正木雄太(まさき・ゆうた)さん
英国・サセックス大学にて社会学を学び卒業後、日本の対人支援の世界へ。2014年に福祉事業所を設立し、社会福祉士として活動。死後の選択肢を増やしたいとRETURN TO NATUREを共同設立。
森の自然風景を優先し、墓石は建てない
撮影:中島光行 (TO SEE inc.)
mySDG編集部:循環葬は、どういった背景から生まれたのでしょうか?
正木さん:弊社代表である小池の実家が墓じまいをする際、お母様から「木が枯れて土に還るように、最後は自然に還りたい」と理想のエンディングについてお話があったそうです。かつ「家」に縛られず個人として眠りたいと。ただ、その術がわからないということで、葬法について一緒に調べ始めました。当初は樹木葬がイメージに近いと思ったのですが、実際に見学してみると、樹木がシンボル的に植えられているだけで画一的だなと思いました。
気になって調べてみると元々の樹木葬は循環葬に近いコンセプトで始まりましたが、現在の一般化された樹木葬は緑の上に墓標がずらっと並んでいて、従来のお墓とあまり変わらないことが多いということがわかりました。さらに一般化された樹木葬は遺骨を骨壷に入れて埋葬するのが一般的なので、「遺骨を自然に還す」という感じではありませんでした。これまでお墓のことを考えたことはなかったのですが、色々調べていくうちに、想像していたものと違うことに、驚かされました。
mySDG編集部:最近は墓じまいを考えられる方が多い一方で、従来のお墓とは異なる葬送の選択肢がほぼないように感じています。
正木さん:そうです。僕の母も亡くなる以前に、小池の母と同じようなことを話していたんです。夫の家のお墓に入ることへの違和感だったり、狭いコンクリートの中に入れられることへの抵抗感だったり。さらに母の場合は、ペットと一緒に眠りたいと話していたけれど、実家のお墓では受け入れが難しく、母の希望に沿うような埋葬はできませんでした。そう思うと、本人が望むような人生の終い方の選択肢はすごく少ない。同時に僕自身の人生の最後を考えたとき、選びたいと思えるエンディングの選択肢がないことに気づいて。それなら自分たちで作ろうと思ったことが循環葬のはじまりなんです。
mySDG編集部:「夫のお墓に入りたくない」というのは、これまで表立って口にできなかった女性たちのリアルな声ですね。日本の家制度の名残りもあり、「個人」よりも「家」単位で 弔うことが当たり前という考え方が根強く残っているのかもしれません。
正木さん:おっしゃる通りだと思います。そもそもお墓の歴史を振り返ると、個人単位で建てられていたお墓が、戦争や自然災害などさまざまな社会事情によって、家単位で祭祀を行う家墓制度となった背景があるそうです。それが今は再び個人の手の内に戻るときが来ているのだと思います。循環葬はこういった家制度にとらわれない考え方を重視しているので、法律婚の枠に入らない事実婚の夫婦(LGBTQ・異性)や友人同士でも共に埋葬できるスタイルをとっています。
敷地内は会員制。生前時から森林浴の場として森を利用できたり、遺族が墓参りしながらハイキングできる
撮影:中島光行 (TO SEE inc.)
mySDG編集部:循環葬の大きな特徴を教えてください。
正木さん: 特徴としては大きく2つ挙げられます。一つは、墓標を立てないこと。もう一つは、ご遺骨を自然循環しやすい方法で埋葬することです。土壌学を研究する神戸大学の鈴木武志助教に環境アドバイザーとして入っていただき、火葬したご遺骨が森の栄養分になりやすいようにパウダー化し、土と混ぜて土中に埋葬する方法を採用しています。埋葬する深さも遺骨の量に応じて変わりますが、菌が多い、あまり深くない場所に埋葬します。
埋葬エリアの様子。価格は合葬の場合、生前契約で48万円、死後契約で55万円。そのほかペア割、ペットとの埋葬にも対応。管理費はかからない
撮影:中島光行 (TO SEE inc.)
mySDG編集部:ちなみに墓標を建てないと決めるのは、これまでのお墓の概念を覆す大きな決断だと思うのですが……
正木さん:実は僕らも少し迷うところはありました。しかし、300名ほどのシニアの方にアンケートをとった結果、約7割の方が「墓標はいらない」と回答されたんです。さらにお問い合わせをいただくお客様から多いのが「墓標がないお墓が一番いい」というお声。おひとりさまのお客様も多いので、従来のように「〇〇家」という家のくくりで目印をつけるのは今の社会に合っていないですし、“自分らしいエンディング”をコンセプト掲げる循環葬にもやはり合わないなと。森の景観を考えても、墓標がない方が本来の森の美しさをそのまま残すことができます。循環葬は、墓標を建てないと同時にお線香やお花などのお供え物のスペースもありません。何も置かず何も残さない、自然に還ることが循環葬のポリシーです。
mySDG編集部:環境面から見た、循環葬の利点についても教えてください。
正木さん:国土面積の約7割を森林が占める日本では、山村における過疎化・高齢化を背景に多くの森林が放置されています。なかでも人の手が入った人工林は人の手を入れ続けないと守り続けられません。RETURN TO NATUREでは売り上げの一部を、循環葬を行う森の保全活動に充てると共に、全国で森林保全を行う森林保全団体に寄付しています。つまり、循環葬のメンバーが増えるほど、森林保全に貢献できます。またこれまでのお墓は森や土地を切り開いて作られてきましたが、循環葬は放棄された森を利活用しますので、環境負荷が低いと同時に森がよみがえるきっかけにもなります。
mySDG編集部:循環葬の森は、関西地区で1200年以上もの歴史をもつ日蓮宗霊場・能勢妙見山の敷地内にあります。お寺の宗派に関係なく、その地に眠る選択ができることは新しい取り組みだなと感じました。
正木さん:実は当初は宗教法人とではなく、自分たちで山を購入して始めることも検討していました。ただ、最近よく聞かれるようになった「海洋散骨」は民間企業でも行える一方で、埋葬(遺骨を土中に埋める)は行政か宗教法人しか行えない法律があるんです。
mySDG編集部:なるほど。そういった経緯があったんですね。
正木さん:ただ、僕らが提案する循環葬は、“家制度、ジェンダー、宗教、国籍にとらわれない”自分らしい眠り方を起点にしているので、寺院と共に循環葬を進めるにあたっても「宗教色を出さないこと」を重視していました。そのため「宗教色を出さないこと」に賛同してくれ、なおかつ敷地内に森を所有する寺院を探し求めました。そんな中で出会ったのが「能勢妙見山」の副住職です。非常に先進的な方で、「仏教は必要な人には手を差し伸べるけれど、強要はしない」という考えをお持ちでした。さらに森林保全にも関心が高く、保有する人工林の利活用にも利点を感じていただいたことから、大きなご縁につながりました。
撮影:中島光行 (TO SEE inc.)
mySDG編集部:実際にどのような方々が見学に来られたり、契約されたりするのでしょうか?
正木さん:世代としては60代から70代が多く、なかには40代後半の方もいらっしゃいます。自然や登山が好きで自分のエンディングは山の中でという方や、既存の樹木葬はちょっと違うと思っている方、死後は何も残したくない方など様々です。
見学に来られる方とお話をしていると、皆さんそれぞれ、特別な思いをもって循環葬に辿り着かれている印象です。例えばパートナーを亡くした悲しみを抱えつつ、埋葬したいお墓がずっと見つからなかったとお話しされる方や、パートナー側の親戚各所からのさまざまな要望によって疲弊されてしまった方など。従来のお墓の在り方に自身はフィットしないと感じながらも選択肢がなく、今ようやく望む形に巡り会えたと喜ばれる方が多い傾向です。
mySDG編集部:循環葬はそれだけ多くの人が待ち望んできた、エンディングのひとつなのかもしれませんね。最後に今後の展望をお聞かせください。
正木さん:まずは循環葬「RETURN TO NATURE」というブランドを確立し、多くの方に知っていただくことを重視していますが、新しい試みとして「ケア」の概念を循環葬に取り込んでいきたいと思っています。これからエンディングを迎えるシニアの方、ご遺族やパートナー、ご友人の方にも寄り添えるサービスの展開にも力を入れていきます。
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