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【取材記事】中小企業のSDGs活用 取り組みの一歩を進める“自分ごと”をつくる
あおいと創研株式会社
日本におけるSDGsの取り組みは、大企業の事例が目立つ一方で、会社の大半を占める中小企業が取り組まなければ実現は難しくなります。しかし目先の課題に追われ、SDGsの取り組みにまで手が回らない中小企業の現状も耳にします。そこで今回は、「中小企業のSDGs活動」をキーワードに、中小企業の経営コンサルティングを行うあおいと創研株式会社 を取材。取締役COO&CSOをつとめる岡田好弘さんに、同社の拠点である愛知県を中心に、中小企業におけるSDGs活動の実情、経営者と従業員の温度感、取り組みを加速するために必要な心構えついて伺いました。
【お話を伺った方】
あおいと創研株式会社 取締役COO&CSO 岡田好弘(おかだ・よしひろ)さん
金融機関にて法人営業を経験し、再生可能エネルギー発電設備建設企業にて、営業統括、支店長を歴任し自身が提案した「カーボンニュートラル」支援を新規事業として2018年度より事業化。温室効果ガス削減目標の国際認定であるSBT認定の取得支援では、自動車、陸上輸送、卸売業での国内初認定を、また中小法人の国内初認定取得を支援。前職のカーボンニュートラル支援事業からの撤退という経営方針の転換を受け、現職にて中小法人向けの「カーボンニュートラル」支援を展開。金融機関との提携を軸にこれまで約200社の中小法人を支援している。
専門家ネットワークを束ね、企業に最も適した専門家とつなぎ、持続可能な経営を支援している
mySDG編集部:昨今はSDGs経営という言葉も耳にするようになり、多くの企業はSDGsを念頭に置いた企業経営が求められています。主に中小企業を支援する御社の場合は、SDGsを切り口にどういった企業に対してどのようなビジネス支援を行なっているのでしょうか?
岡田さん:当社は経営コンサルティングを事業としている企業です。その中でもカーボンニュートラルの支援では、名古屋銀行様と業務提携、富山第一銀行様とビジネスマッチング契約を締結しています。そのため、主に金融機関の取引先企業様を中心に支援を行っています。業種に関してはわれわれが名古屋を拠点にしていることもあり、やはり自動車関連の製造業からのお引き合いは多いです。とはいえ、建設業や食品メーカーをはじめ業種を問わずご相談があります。
mySDG編集部:ちなみに岡田さん自身、前職の再生可能エネルギー発電設備建設企業では「カーボンニュートラル」支援を自ら提案し、新規事業として手がけられたそうですね。カーボンニュートラル支援において、ここ数年企業のニーズに変化は感じられますか?
岡田さん:支援を始めたのは2017年頃からですが、当時はカーボンニュートラルの取り組みを「強み」に変えたいというニーズが多かったですね。一方で、ここ一年くらいは「取引先対応」としてやりたい中小企業のニーズが増えています。
mySDG編集部:以前は「強み」に変えたいというポジティブなニーズが、今は対外的な意味で取り組みが求められているということですね。
岡田さん:そうですね。取引先からの要望がかなりはっきりしてきたということです。つまり最近はCO2の排出量を把握していないと取引に影響が出そうだ、というフェーズになってきたので対応したいというニーズが増えてきたと感じます。
mySDG編集部:ある意味、ポジティブとはいえないニーズですね。
岡田さん:そうですね(笑)。でも僕個人としては、取引先に求められたからとか、金融機関に勧められたからやるみたいなニーズでいいと思うんです。やらないよりやった方がいいわけですから。勧められたからとりあえずやってみようという形で取り組む企業が増えていくことが重要。とはいえ、中小企業に大企業のような取り組みを求めるのは難しいわけです。だから中小企業としては「なぜ取り組んだ方がいいのかを理解して、まず始めてみる」という感じでいいのかなと思います。
mySDG編集部:大企業に比べて中小企業はSDGsの取り組みが難しいというのは、規模の問題が大きいということでしょうか?
岡田さん:規模の問題もありますし、あとは時間や費用を割くことが難しいですよね。いくら地球や社会に良いインパクトを与えることでも、かけた費用に対してベネフィットがないような施策を中小企業が行うのは難しいと思います。つまり言い方が悪いですが、社会に良いインパクトを与えることも大切ですが、会社をいかに存続させるかが中小企業にとっては、喫緊の課題だということです。そのあたりを理解しながら、それでも「取引先から求められるからやった方がいいですよ」という立ち位置で、提案することが大切だと感じます。
SDGsに関連するテーマを扱うセミナーや勉強会を積極的に開催
mySDG編集部:SDGsの取り組みはどうしても売り上げに直結しにくいので、大企業に比べて体力の低い中小企業は取り組みのハードルが上がってしまいがちです。コンサルティングを行う側としては、特にどういった点に配慮していますか?
岡田さん:当社では中小企業向けのSDGs導入セミナーを開催する機会が多いのですが、特に伝え方には工夫をしています。例えばSDGsの取り組みについて話す際には生活者のレベルに落とし込んで話したり、売り上げに関わる重要な問題として話したりしていますね。そうしないと自分ごととしてなかなか話を聞いてくれませんよね。大手の食品メーカーがこういう取り組みをしていますよという話をしたところで、「うちとは違う話」という感覚。それなのに、実際に聞かされるのは大企業の事例ばかりで、ギャップがすごく大きい気がします。なので、家に帰って家族と一緒に話せるレベルの話をするか、もしくはSDGs的な視点がないと取引先の調達方針と合わなくなってくるという自社の売り上げに直結する話をするような伝え方をしています。
mySDG編集部:なかなか自分ごととして捉えにくい点が取り組みの障壁になりやすいのかもしれません。中小企業の経営層という点については、先ほど「かけた費用に対してベネフィットがないような施策を中小企業が行うのは難しい」というようなお話がありましたが、彼らの意識はどのように感じられていますか?
岡田さん:上場企業は市場にさらされているので投資家からの要請がすごく重要という感覚が強いわけです。しかし中小企業の場合、その感覚がなかなか持てない。だから自分たちが社会から見られているという感覚が薄いため、SDGsの取り組みにおいてもあまり危機感が持てない要因になっていると思いますね。
mySDG編集部:特に愛知県はトヨタという巨大カンパニーの存在が大きく、車産業によって安定的に発展してきた土地です。しかも独自の文化が地域に深く根ざしていて、わりと閉鎖的な社会という個人的な印象もあります。今は時代の変わり目ということもあって、古くから続いてきた社会や経営の在り方に変化が生まれてきていると思うのですが、その点いかがですか?
岡田さん:確かにトヨタ関連の企業に入れば安泰だという雰囲気はあります。だからこそ、大きな存在であるトヨタがサステナビリティを重視する経営にシフトしていることを伝えると、響きますよね。「地球の気温が2℃上がると世の中が大変なことになる」ではなかなか伝わらない。でもトヨタの取り組みに合わせて彼らは変化していて、あくまで取引先対応ではあるけれど、実際にCO2排出量を下げる努力をしています。どういったきっかけでも自分ごととして捉えてアクションにつながることなら、私個人はそれでいいと思っています。
mySDG編集部:主にカーボンニュートラルの分野で中小企業をサポートする身として、難しさを感じる点はどのあたりですか?
岡田さん:先進的にやっている企業がまだ儲からないからでしょうね。大企業の場合は、サステナビリティブランドの方が収益率が高いという事例もあるようですが、中小企業においてはまだ難しいかなと思います。提供した価値に対して、適正な評価を得られるような土壌がまだまだ育っていないということなのかもしれませんね。
だからこそ当社としては、われわれの仕事の価値を認めてくれるクライアントと多く付き合いたいですし、そのために経営者としては、仕事を信頼してくださる見込み客を作ることが仕事だと思っています。
mySDG編集部:そのために、会社として何をすべきなのでしょうか?
岡田さん:例えばお客さんに「これを売らないといけない」という状況だとどうしても売る側の立場って弱くなりますよね。価格を下げてでも、買ってもらった方が楽だし、楽になりたいという意識になると思うんです。特に中小企業の場合、採算を無視したような値引きを求められることがよくあります。しかし、商品の価格は当社だけでなく、それに係る多くの人の仕事の対価を積み上げて決まっています。
値引きをするということは、それらの人の仕事の対価を減らすことになります。値引きを要求された場合には関わる方への適正な報酬を考慮した上での見積もりであることを伝えています。そういったことを説明して、理解してくださるクライアントと付き合う方が、取引そのものも継続的に続いていきます。値引きして得をするのは購入する1社かもしれませんが、その仕事に係る多くの方の仕事の対価が減ってしまうと考えたら安易に値引きの話はできないはずです。明日は我が身ですから。
mySDG編集部:それは相手のリテラシーに深く関わりますし、いわゆる倫理感にもつながってくるかと思います。そういった理解のあるクライアントに出会うこと自体、容易ではないような気がします。
岡田さん:そこはちょっと大きい話になってしまうのですが、今の中小企業の在り方を大きく変える必要があると感じています。つまりは、提供する価値によってきちんと利益をいただけて、関わる人に適正な対価が支払え、環境や社会にポジティブなインパクトを提供できる企業が生き残れるような世界にしていくことが必要なのかなと。ちょっと厳しい言い方になってしまいますが。それが正常な世の中だと思うんです。
mySDG編集部:“正すこと”で痛みを伴う人も出てきます。それが誰視点での痛みかという意味でも見え方が全然違うと思うのですが、全体を捉えたときに何が正しい判断なのかがすごく難しいですね。
岡田さん:難しいと思いますね。今の時代、信じられないくらい安い価格で洋服や食品が提供されています。でも子を持つ親の立場で言えば、その商品が市場に出るまでにどんな背景があるのか、そこを想像できるような人になってほしいなと思います。自分が得したことで泣いている人がいないか、立ち止まって考えてほしいですね。
有志メンバーで運営している「ReDESIGN PROJECT(リデザインプロジェクト)」
mySDG編集部:ちょっと質問が変わるんですけど、広がってほしい活動があれば、ぜひ教えてください。
岡田さん:実は有志メンバーで「ReDESIGN PROJECT(リデザインプロジェクト)」という活動を行なっています。愛知県および近県地域は、地場 産業として繊維業が盛んな土地です。倉庫に眠っているサンプル生地や少しの傷のために廃棄される未利用繊維素材等を材料にしてデザインを学ぶ学生たちに商品をデザインしてもらい、それらを地域の小売店舗で販売しています。
プロジェクトの概要を学生たちに説明する岡田さん
製作は地域の障がい者の方々が行い、地域産業の資源循環を促しながら、若者と障がい者、協賛企業、お客様がつながり、地域循環の環を生み出すようなプロジェクトになっています。当社の企業理念は「束ねつなぐ大きな可能性」ということで、中小企業に適切な専門家をつなぎ、地域社会に貢献することをコンセプトにしています。人と人、人と地域、人とモノを繋ぎ、課題解決を行うプロフェッショナルとして、地域に良い影響を与える取り組みを今後も続けていきたいですね。ちなみに現在、協賛企業を絶賛募集中です(笑)。
mySDG編集部:ありがとうございます! プロジェクトに興味のある企業の担当者はぜひご連絡ください(笑)。では最後に今後の展望をお聞かせください。
岡田さん:難しいですね。日々お金に追われて会社を経営していますので……(笑)。展望というか、意識したい心構えという意味では、経営者に最も必要なのは「インテグリティ」、つまり「高潔さ」であると経済学者のドラッカーが言っていますよね。正しいことをするという強い意志がないと、どこかにひずみが出る。だからこそ、高潔さを意識して仕事に取り組んでいきたいですね。自分の子どもの目を見て話せる仕事だけをしていきたいです。そして、当社が関わるすべての人に正しいことで応えていきたいなと。人は誰しもそれぞれで違う正しさが出てくるので、当社としての正しさをきちんと定義して、しっかり伝えていく役割を果たしていきたいと思います。
mySDG編集部:これまでの常識や価値観が大きく変わってきている時代だからこそ、その「正しさ」を定義し直し、伝えていくことは大切ですよね。岡田さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
【TOPIC】
あおいと創研株式会社の代表・近藤氏による「近藤大ちゃんのあおいと!縁ラジオ」(CBCラジオ)を配信中。「つながる」をコンセプトに、ときにサステナブルなトピックスも楽しくわかりやすく、お伝えしています!
https://hicbc.com/radio/aoito/
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